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『忘れられた日本』(ブルーノ・タウト)

戦前の日本に3年間も滞在したドイツ人建築家が書いた、日本文化についての随筆集。
未読の『日本文化私観』とも内容が重なっているのでしょう。坂口安吾さんが『・・・私観』に対して同名の評論文で加えた批判が、そのまま当てはまる内容でした。

桂離宮や伊勢神宮などを最大限に評価し、欧米の古典的理想としてのギリシア建築にもたとえる一方で、欧米の模倣が目立つ当時の現代建築や、古くても装飾過多な建築については、強く非難しています。
ほとんど、どのページを開いても見られるこういう主張は、当時の日本人にとっては新鮮で影響力があったのではないでしょうか。近代の欧米や古代の中国の影響を除いた日本文化そのものに高い価値がある、という考え方が著名な欧米人によって繰り返し語られれば、自尊心が刺激されて無条件に賛成しそうになります。
これに対して坂口安吾さんは、模倣も虚飾も含めた全てが私たち日本人である、という論旨で強く反発したのです。

2007年の読者としては、どちらも正しい、としか言いようがありません。
本書のようなものがなければ、戦後の反動によって日本文化への誇りの拠り所が失われてしまっていたかもしれませんし、坂口安吾さんのような現状肯定がなければ、それもまた別の経路を通って拠り所を失い、かえって欧米化に偏っていたかもしれません。

ところで、日本文化が他の文化よりも優れている、という意味に受け取るならば、本書を読み誤っていることになります。悪い意味での“評論家”が『日本文化私観(タウト)』について語る時には、案外そういう誤解が多いのではないでしょうか。
本書の一貫した主張は、全ての文化がそれぞれの風土に適応している、であり、だからこそ、他文化の安易な模倣がさげすまれているのです。

坂口安吾さんの批判については、自尊心を満たすような形に歪められた誤解が、戦前の“知識人”たちの間に蔓延したこと、が前提になっているような気がします。

忘れられた日本

忘れられた日本

  • 作者: ブルーノ・タウト
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2007/06
  • メディア: 文庫


2007-09-12 04:10  nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0)  共通テーマ: [最近読んだ本]

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