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『文章教室』(金井美恵子)

陳腐な「文章」を全編で嗤おうとした小説です。
物語としては些細な縁で関係のある登場人物たちそれぞれの恋愛の顛末に過ぎず、陳腐さをあげつらうためにこそ技巧が凝らされています。

まずは、文章教室に通う主婦絵真。
もちろん『ボヴァリー夫人』にちなんで名付けられているのでしょう。
不倫したり不倫されたり家出したりしながら、「折々のおもい」という日記風の文章を書いています。
次に、絵真が通う教室の講師をつとめる「現役作家」。
若い恋人ユイちゃんに振り回されますが、その体験をモデルにして書いた小説が最後に文学賞を受賞します。
絵真の娘の桜子は、若手文芸批評家の中野勉を結婚に引きずり込もうとしています。
中野勉は、英国人の恋人と桜子との二股恋愛についての自己弁護に終始しています。

これらの“恋愛”は最初はバラバラに進行していますが、実は奇妙な縁で結ばれていたことが次第に明らかになってきます。
例えば、中野勉の父親の友人が桜子の祖父渡辺七郎で、渡辺七郎宅の隣が「現役作家」の別宅。「現役作家」が通うユイちゃんの店には中野勉も現れます。
この辺りの展開が、最も小説らしい楽しみを与えてくれる部分かもしれません。

さて、物語や文章表現の“陳腐さ”を際立たせるのは、二種類の引用です。
まず、「折々のおもい」が引用されることで、絵真の言動の陳腐さが表現されます。
一方で、「現役作家」や中野勉の陳腐さは、現実世界の小説や評論が引用される形で表現されます。この場合には、単純な内容をわざわざ難解な文章で書く、という“俗悪さ”が嗤われています。

このように、この作品自体が随分と“趣味の悪い”小説になっていますが、あとがきを読む限りでは、作者は本書を「ケッサク!」だと思っているようです。
確かに、これだけの悪意をまき散らせば、楽しいことでしょう。
読者としては、一緒になって笑い飛ばすか、下らない小説だと切り捨てるのか、のいずれかが正しい態度かと思われます。
ところが、「解説(三浦俊彦)」では、「無限の《読み》を誘うレリーフ」などというサブタイトルをつけて、この作品を書いたのは誰か?という真面目な文芸評論を試みています。
悪のりして、わざと俗悪に振る舞っているのでしょうか・・・。

文章教室 (河出文庫―文芸コレクション)

文章教室 (河出文庫―文芸コレクション)

  • 作者: 金井 美恵子
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 1999/05
  • メディア: 文庫


2008-02-20 19:40  nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0)  [未分類]

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